特別支援学級から通常学級へ その1 第688号 [O4 特別支援教育]
◆リード:入学当初から、2、3年後ぐらいには、私はAさんを通常学級に入れようと構想していた。3年3学期のこの時期に、かねてからの構想通り、Aさんは、すべての教科で交流先の通常学級で授業を受けることとなった。
2010.1.14 特別支援学級から通常学級へ その1 第688号
ー体育1時間の交流から全教科交流までの道のりー
私は、小学校特別支援学級の担任である。現在3年生(Aさん)、4年生、5年生の3名を担任している。
私は、入学当初から、2、3年後ぐらいにはAさんを通常学級に入れようと構想していた。そのために、指導を積み重ねてきた。
この3学期、とうとうAさんは、すべての教科(道徳・特別活動などを含めて)において、同学年通常学級で学習することとなった。
当初の構想がついに実現したわけである。
【全教科交流までの道のり】
入学当初から、特別支援学級に在籍したAさん。
■1年時
・入学後しばらくは、体育1時間のみの通常学級との交流学習であった。それ以外は、すべて特別支援学級での学習であった。
・その後、1学期中に、体育3時間の交流学習となった。
・「Aさんはもっとやれる!」と言った当時の教頭先生の勧めもあり、1年生半ばで算数4時間の交流学習を増やした。
・もちろん、生活科や学級活動、諸行事など、参加できるものは原則として参加させていた。
■2年時
・体育、算数に加えて、音楽も交流学習とした。
・夏休み明けの9月、Aさんは荒れた。一時は、算数での交流学習をやめ、特別支援学級での学習に戻すかという話になりかけた。
指導力のある、私のパートナーである指導員さん(この指導員さんが交流先でのAさんをサポートしていた)までが、「通常学級での学習よりも、特別支援学級で個別に算数指導していった方がいいかもしれない。」と言った。
私は、「今ここで特別支援学級での算数指導に切り替えたら、Aさんは将来的にも通常学級に入る状態にはなれない。」と思った。そこで、
私「今、Aさんを特別支援学級での算数指導に切り替えたら、Aさんはずっと通常学級には入れないよ!Aさんの一生を左右することだよ!(もう少しがんばってみようよ)。」
と言った。
Aさんが学習に集中できないで荒っぽい言動のときは、他の子に迷惑をかけないように、指導員さんが特別支援学級に戻し、いっしょに遊んだり、話相手になったりして、ケアした。
私は、そうした場合の学習の遅れを、昼休みに指導することでカバーした。
Aさんは、わからないとなおさら集中しないので、学習が遅れないようにしなければならなかった。
やることををやれなかったら(通常学級での算数学習において)、昼休みには私と学習すること。これは、1年間ほど続いた。
かくて、なんとか算数指導は、通常学級での学習に踏みとどまれた。
■3年時
・3年生に進級するに当たり、社会科、理科、図工、学級活動(あとで道徳も)を交流学習の時間として増やした。つまりは、国語と総合の時間を除いてすべて(約7割)、通常学級での学習とした。
Aさんは、できると思ったし、将来的に通常学級に入れるには、社会科、理科を交流に出す必要があったからである。
幸い3年生担任は、きわめて指導力の高い教師であり、かつ特別支援教育への理解も深いので、Aさんは見事に適応した。
1時間目は、「日常」(教科名)で特別支援学級で行い、家庭でトラブルがあったりして落ち着かないときは、1限にうまくケアして落ち着かせ、その後で2限からの通常学級での学習に備えた。
同時に、私自身3年国語の指導をAさんにきっちりとやってきた。
【国語と総合を増やす決心! そして本人と保護者の説得!】
かくて2学期も終わる頃、担任の私と指導員さんが協議して、3学期から国語・総合も3年生に入れてみようということになった。
3年生担任に相談したところ、「大丈夫ですよ。」ということであった。
そこで、校長に相談し、これまたOKをもらった。
かくて、本人に
私「3学期から国語や総合も3年生といっしょに学習するよ。」
と言った。
Aさん「えー! 国語も! 嫌だ!」
私・指導員さん「あなたは、もう十分通常学級でやっていけるんだよ。その方があなたのためなんだよ。」
Aさんが3学期から通常学級に行くように、2学期終業式の後、保護者に許可というか、Aさんがそうするように説得してもらうために、保護者の家を訪問した。
お母さん「えっ! それじゃあ、3学期から全部3年生教室で学習するんですか。」
私「はい、指導員さんが付いてサポートするので大丈夫です。本人は不安で嫌がっているので、お母さんからもよく言い聞かせてください。」
お母さん「よく言って聞かせます。」
【全然問題ありません】
かくてこの1月から、Aさんは1限から5限まで通常学級で学習している。
総合(教科名)の時間だけは、単元の区切りがよいところから入ることになっている。これとて、来週から通常学級での学習となる。
今週から予定通り(始業式の翌日)、1時間目の国語の授業から、通常学級に入って学習を始めた。
この14日(木)の校内支援委員会で、通常学級の担任にAさんの様子を訊いてみた。
担任「全然問題ありません。」
かくて、3年がかりで通常学級での全面的な学習が達成できた。
ただ、毎日の帰りの会と週1回1時間のひまわりタイムだけは、特別支援学級で指導する予定である。
【成功した四大要因】
どうして通常学級での全面的な学習が達成できたか。
大前提としては、本人の力である。本人がそれだけの能力・可能性をもっていなければ、できるものではない。
しかし、それはあくまで可能性であって、それを引き出し、伸ばしていく周囲の働きかけがなければ、これまた達成できるものではない。
第1に、担任である私及びパートナーである指導員の志、力量があったことだ。
私は、通常学級での指導歴の方が長く、そちらの指導も精通していた。だから、特別支援学級においても、通常と同レベルの指導が可能であった。だから、3年3学期になって初めて通常学級の国語に入っても、ついていけたわけである。
それに、Aさんはできる子だと、その可能性を信じて、算数の学習を戻されそうになったときでも、昼休みも指導するなど、踏ん張ってやり通したからである。
第2に、交流先の通常学級担任の指導力が極めて高かったことだ。Aさんが意欲的に学習できるように、友だち関係への配慮、障害やつまずきへのきめ細かな対応をしながら、指導するだけの力をもっていたからである。
第3に、校長の適切なリーダーシップのもと、Aさんを伸ばしていこうとするあたたかい雰囲気、協力体制ができていたからである。
Aさんは特別支援学級在籍だからと、ずっと特別支援学級に留め置こうというような気は微塵もなく、Aさんが一番伸びる環境を用意していくという気概があった。
私自身、Aさんの保護者から「交流を増やしてくれ。」とか一度も催促されたことはない。いつも学校側(私)が先をいくような形で交流を増やすことを提案していた。
以上、3(4)つのどれもが大切だ。どれ一つ欠けても、難しかっただろう。
(当然ながら、保護者の理解と協力は不可欠だが、今回はそれは大前提として考えている。)
【総合での交流学習開始に向けて】
さて、交流先の通常学級担任は、こうも言った。
「総合でインターネットを使うのですが、Aさんはローマ字入力で検索できますかね。」
私「いや、まだ3年生だからローマ字は教えていません。ひらがなキーボードで検索しています。」
「どうせ4年生でローマ字を習うことになるので、うちの学級は最初からローマ字入力を教えています。みんなそれができるんです。」
私「確かに二度手間になるから、その方がいいかもしれないですね。」
ローマ字を習うのは、通常4年生の国語である。他の2名は、ローマ字を教えているが、Aさんは3年生なのでまだであった。つまり、Aさんは、ローマ字を書くことはもちろん、読むこともできない。
ところが、交流先の3年生はみんなローマ字入力ができるという。
この話を聞いて、私は、通常学級での総合の指導が始まるまでに、つまり今週中に、Aさんにローマ字を指導しようと決めた。(続く)
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◆キーワード:1 交流教育 2 特別支援学級 3 在籍
◆留意点・その他:
計画的で粘り強い指導に、頭が下がる思いです。教師のサラリーマン化だとか、指導力低下など喧伝されますが、真摯な取り組みを聖職と感じました。ファーザーさんや周囲の先生方の力量もさることながら、算数で躓きそうになっても「可能性を信じて」頑張った志に感銘を受けました。
やりがいもある一方、何かと大変なことも多いかとは思いますが、これからも頑張ってください。
by Shun (2010-01-21 00:13)
>Shunさんへ
コメントありがとうございます。
私は、担任している特別支援学級在籍の子どもとその家族の現在および将来の幸せを左右する立場にあるという自覚(不遜jかもしれませんが)があります。
その自覚をもとに、真摯にプロとして確実に子どもを伸ばす教育をしようと思っています。
子どもは、こちらが適切な対応をすればするほど、伸びていきます。子どもの小さな変化、小さな成長に喜びややりがいを感じています。
そして、それが積み重なっていくとき、 気がつけば、子どもは大きく成長しているという感じです。
実のところ、家庭では二人の女児の父親ですが、学校では三人の男児の父親という感じもあるんですね。
by ファーザー (2010-01-23 17:04)
読ませていただいて感動しました。ほぼ全教科交流をしている小4の保護者です。可能性を見逃さない特別支援級担任の心意気にスカッとした気持ちになりました。ありがとうございます。
ローマ字指導を決意されることろも、児童が交流しやすいように、困らないようにとの思いにあふれていて、こんな先生がいるんだ!と感動いたしました。。うちの学校は全教科交流なんてとんでもないという雰囲気なのですが、家庭で予習をばっちりして、教育委員会の助言をいただきながら、全教科交流に挑戦しています。IQ48で小1を迎えましたが小3の夏IQ80と言われました。子どもの可能性というのは、こんなもんだと大人の頭で測ることはできないといつも感じてきました。これからもこつこつとそして夢をもってやっていきたいとあらためて思いました。
by 星のかけら (2011-02-01 10:29)
>星のかけらさんへ
コメントありがとうございます。
ローマ字指導はもちろんやりました。
ただ、通常学級に戻すことがすべて教育の成功というわけではありません。今年卒業するある子(私が1年生から見ていた子)は、ずっと特別支援学級でしたし、中学でもそうでしょう。それが、最もその子を伸ばす道だと、私は考えるからです。今年度1学期していた、理科の交流学習も、本人のために余りなっていない(お客様状態では意味がありません。学習が成立することが大切です。)ので、私とのマンツーマンの学習に変えました。つまり、交流を減らしました。
一方「2006.4.20 ADHD児に「ひらがなと数字のおけいこ」」http://kazoku.blog.so-net.ne.jp/2006-04-20
特別支援学級で子供は成長する!
http://kazoku.blog.so-net.ne.jp/2009-06-06-1
で紹介した子は、現在5年生。入学時は音楽と体育(一部)の交流だったのが、3年生には、算数5時間すべてを交流学習とし、4年生では、算数5時間に加えて、理科すべての交流が増えました(逆に音楽は交流が難しく、音楽発表会の前など集中型の交流になりました。)。5年生では、算数、理科に加えて社会すべての交流となり、この3学期からは国語全時間の交流を加えることに挑戦しています。つまり、図工と音楽、一部体育、自立など以外は、交流していていることになります。しかも、形式的な交流ではなく、テストも8割から9割以上得点しており、内容もよく理解しています。中学では、通常に入れることをめざしています。この子は、それが可能な子であり、その方がその子のためになると、私が考えているからです。ちなみに、この子は2年生後半から、私の勧めで、家庭でベネッセの当該学年の教材を学習しています。
その子にとって、どこまでが可能で、どのような学習形態がよりふさわしいか、冷静に判断して上で教えています。つまり、その子にとって、現状の中で、よりよい教育環境を創造するように努めることが、私の責任であると考えています。
by ファーザー (2011-02-02 20:00)
ずっと特別支援学級の6年生にしても、IQからは普通は考えられないぐらい成長しています。例えば、4年生で教え始めたローマ字ですが、6年生の現在では、清音はすべて大文字・小文字すべて読んだり書いたりできますね。AME,MOMIzi…などすらすら読んだり書いたりできます。DA,DI,DU…などの濁音も大丈夫です。あと、きゃきゅきょ、きって(促音)などができれば、完全にマスターです。私は、「ひらがなが読んだり書いたりできたのだから、ローマ字だってできるはずだ」と考えて、みんなと同じ4年生で指導したのです。毛筆もそうです。「鉛筆で文字を書けるのだから、毛筆だってできるはずだ」と考えて挑戦させました。この子は、この間、市書き初め展で銀賞を取りました。できない大きな理由の一つは、そもそもあきらめて教えないことにあると、考えています。(つまり、障がい児だから、これくらいでいい。こんなものだという教える側の姿勢にも、大きな問題があると考えています。)だから、私は、IQが低いからという理由ではじめから挑戦させないという姿勢は取りませんでした。できそうなら、それこそ特別に支援しながら、挑戦させてきました。この成果は、通常学級では、決して達成できなかったでしょう。
by ファーザー (2011-02-02 20:20)
交流して伸びる子と、支援級で伸びる子とほんとにそれぞれですよね。見極める眼差しが問われるところですよね。
ローマ字は、うちの子の場合は少し早かったのですが、実は年長の時にパソコンを与えました。中古だし、壊れてもいいや、みたいな感じで。ひらがなは読めていたので、ひらがなの下にローマ字を書いたメモをたくさん作って。そうすると、うれしそうにゆっくりゆっくり打ち始め・・・ANPANNMANN、NAUSIKA、DENNSHA とか。またたく間に覚えていきました。今ではパソコン学習の時は、ものすごい速さで打ち込みをするので、初めてそれを見た人はおお!と驚くそうです。自閉症なんですが、きまりとか法則が大好きなんだと思います。パソコンと自閉症って相性いいんじゃないのかなと感じています。
ファーザーさんの生徒さんがローマ字を獲得していくことは、本当に自信に繋がっていくことなんじゃないかなと思います。やればできる!という成功体験って大事ですよね。
>お客様状態では意味がありません。学習が成立することが大切です
私もそう思います。先生の中には、そこにいるだけで交流したと思ってらっしゃる方も時々おられますが、私は交流するからには、何かをつかむ時間であってほしいと思います。そのためには、それなりの準備が必要なわけで。うちも、やってます、ベネッセ。国語はそれだけではとても足りないので、陰山メソッドで音読とか作文とか。
>つまり、障がい児だから、これくらいでいい。こんなものだという教える側の姿勢にも、大きな問題があると考えています。)だから、私は、IQが低いからという理由ではじめから挑戦させないという姿勢は取りませんでした。できそうなら、それこそ特別に支援しながら、挑戦させてきました。この成果は、通常学級では、決して達成できなかったでしょう。
信じてくれる人がそばにひとりいるだけで、がんばれると思います。思いもよらない力を発揮すると思います。小学校で今、早朝マラソンがあり、本人がやるというので、参加しています。体育部の顧問の先生が、うちの子の力を信じてくれていて、それを子どもは感じているように思うのです。朝はとても苦手なはずなんですが、週4日朝7:40には校庭に行って走っています。
ファーザーさんと生徒さんで一歩一歩何かを紡ぎだしていく。すばらしいですね。
by 星のかけら (2011-02-04 15:40)